男前と言えば、オトコッぷりのいい二枚目のことだが、服飾用語としては前合わせを指す言葉で
ある。だから女前もある訳だ。わかり易い表現では、左右の前身頃のうち、釦ホールの開いている
方を上前、釦が縫い付けられている方を下前と呼ぶ。
あまり詳しくはないが、和服の場合、性差なく右前の筈だ。ところが洋服の場合男性は右前、女性
は左前が一般的。女性服のメンズ仕立てなんてのもあるが、これは例外としておく。右前と左前の
区別が逆の様な気がしないでもないが、定義としては下前を以って呼称とする。それでは何故、洋
服の構造として左前あるいは右前が生まれたのだろうか。
人類において右利きが多数であると言うことが機能のキーワードになる。中国の騎馬民族の場
合、弓矢が主な武器だった。右前では前合わせが逆らう方向に向いてしまいなめらかでなくなる。
だから左前の服を着ていたとされる。ところで、男服の起源とされる軍服を考えると、帯剣は左の
腰になるから、右前の方が動きに対して順である。海軍のピーコートは右前でも左前でも着用でき
るダブルブレストの構造になっている。船上の冷たくて強い風に合わせて前合わせを変えて寒さを
凌いだ。
右利きの場合、右前の方が、釦に手を掛けやすい。女性は、左前の方が釦を留めやすく感じるか
も知れないが、それは長い間の習慣だからだろう。
婦人服が主に左前であるのは何故か。王族貴族の貴婦人たちは自分で服を着ない。召使いに着
せてもらう。対面している召使いからすれば、左前の方が便利だからという説が有力である。世の
男性の為に着せやすく、脱がせやすい左前が女性服の標準になったというのは、あくまでも俗説。
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